Epilogue

 01:00に起床し、チェックアウトして02:00のエージェントのピックアップを待つ。深夜、さすがに車も少ないテヘランの大通りをメヘラバード国際空港へ。エージェントのガンバリさんは日本語が達者でいろいろ教えてもらう。いわく『今週の土曜は、ムハンマドが預言者になった日なので、あちこちを飾り付けている』のだそうな。クリスマスのようなものなのだろうか。
 空港の待合は相変わらず大混雑。Departureへの入り口に向け人ごみを掻き分けて進んでいく。まずは荷物のX線チェックと金属探知機によるボディーチェック。…ってこれだけ? もらった資料には、出国用の税関申告書を書いたり、手荷物を全てチェックしたりと、かなり面倒なことが書いてあるのだが、ガンバリさんいわく『いまはそういうのはなくなりました』そうな。あっさりとチェックインカウンターへ。14個あるが、イスタンブール行きTK1277のチェックインはまだ始まっておらず、ぼーっと待つ。
 02:40にようやくスタート。早速に並んでチェックイン…と思いきや、ここで思わぬトラブルに見舞われた。何と、リコンファームがされておらず、登場予定者名簿に私の名前が載っていないという! アタテュルク国際空港にて間違いなく行ったことを何度も主張するが一向に埒が明かない。ガンバリさんが知り合いの担当者などに働きかけてくれ、幸い早めに到着していたこともあり、キャンセル待ちリストの1番目となることが出来たが、かなりの焦燥感。テヘランから出られず帰国できなかったら…と思うと途方に暮れてしまう。
 とにかく、出発30分前くらいまで待つしかないというが、時間が遅々として進まない。ガンバリさんも担当者も『リストの1番だし大丈夫だよ』といってくれてはいるが… さらに、イスタンブール発東京行きTK050のリコンファームも気になるが、それについてはテヘランで調べることは出来ないとのことで、ますます焦りがつのる。ふと見ると、私以外にも同様のことを言っている人が何人もいる。トルコ航空に何か問題があるのではないだろうか? ひたすら時が過ぎるのを待つ。
 すると、04:15に呼ばれ、チェックインをするから航空券を出すようにといわれた! 周囲で待っている人たちには申し訳ないが、これほど嬉しかったことも久しぶりである。早速にチェックインをさせてもらった。ただし、TK050の予約状況が分からないので、荷物を成田まで預けることは出来ず、いったんイスタンブールにて受け取らねばならない。これでイスタンブールの街に行くプランはほぼ不可であるが、いまはそれどころではない。ガンバリさんとカウンターの担当者にお礼を申し上げる。もちろん、TK050の予約状況もとても気になるが、まずはテヘランを出られるので一安心。
 ガンバリさんと別れ、出国審査へ。パスポートと入国カードを提出すると、パスポートに出国スタンプが捺された。Duty Freeもあるにはあるが、疲れと不安で見る気にもならず、ふらふらと最後のセキュリティ・チェックへ。無事に通過すると、TK1277のボーディングが行われていたので乗り込む。05:30に離陸。まだ夜明け前なので、テヘランの夜景が美しいが、疲れと不安で心に入ってこない。残念な限り。疲れたのですぐに眠る。


 07:30(時計が1時間30分戻る)にイスタンブール・アタテュルク国際空港へ到着。入国審査には長蛇の列が出来ていて、さっさとトルコ航空のカウンターに行きたいだけにもどかしい。約20分後にようやく通過すると、既に私の荷物は出ていたのでそれを拾い、エスカレーターで2Fにある出発カウンターへ行く。出発カウンターにはトルコ航空のTicket Salesがあるので、チケットを見せて予約状況の確認を依頼すると…問題なくリコンファームされているとのこと! 膝の力が抜けるほどに安心した。やはり、私の手続きは間違っておらず、あのアタテュルク空港の担当者がミスしたのだろう。腹も立つが、それ以上に気が抜けて疲れがどっと出る。
 さて、TK050の出発は17:30なので、待ち時間が10時間近くもある。当初はこの時間にイスタンブール市街に行こうと考えていたのだが、大きな荷物を持っているうえ、精神的にかなり疲れたので、空港で休むことにする。偏頭痛もしてきたが、一人旅なのでベンチで眠るわけにもいかないので、頭痛薬を飲むことも出来ない。まぁ、頭痛とは長い付き合いなので、我慢できないこともない。イスタンブールに行けないのは残念だが、大難がこの程度の小難で済んだのだから佳しとすべきだろう。それにしても、全く悪運の強いことだ。
 12:00にチェックインが始まったのでさっさと行う。ボーディングパスをもらい、心から安堵した。やれやれ、これで帰ることが出来る。いつもの旅行だと、帰国時の空港のDuty Freeでは感傷がつのるものなのだが、今回ばかりは安堵感でいっぱいである。16:30に案内があり218ゲートへ行き乗り込む。17:30に離陸し、何とか無事に成田着。


 これで、イランの旅も何とか無事に終了した。これまで以上に、人々と触れ合う機会が多かった。イラン人は概してとても親切で、しかも来客をもてなす習慣があるため、異邦人である私をもてなそうとしてくれていたようだ。もちろん、空港や街角で困っていた時にすぐに助けてくれるのも有り難かった。これらの助けなくしては、旅を無事に終わらせることは難しかったかもしれない。
 何処にいっても声をかけられるので、なかなか1人で落ち着くということが出来なかったことも事実だが、熱いチャーイをすすりながら彼らといろいろ話すことで、当初持っていたイメージがかなり変わった。結局、我も人間・彼も人間で、当然ながら人間としての生活や感情があるということだ。彼らと話すことで、ただの観光に留まらない旅をすることが出来たように思う。イラン人のホスピタリティは、見知らぬ国にあってとても嬉しかった。当初は観光だけを目的にしていたのだが、終わってみれば人と話をすることも旅の重要な一部になっていた。
 もちろん、パッケージツアーでこの国の美だけを堪能する旅も十分に楽しいはずだが、それだけではこの国の面白さの重要な一部を味わえないことも事実だ。この国を旅行する機会のある方には、ぜひ街で出会った人とチャーイをすすりながら話をしてみることを薦めたい。
 もちろん、私を騙そうとした連中もいないわけではないが、悪人のいない場所など世界の何処にもない。長い時間をかけてさえ他人を知ることが難しく、まして短い時間の中で互いに母国語でない言葉や表情、身振りなどで判断していくしかないのだから善悪を見極めるのは難しいが、妙に身構えず、かといって完全に信用せず、という線引きが大切なようだ。その点、私は少々相手を信用し過ぎたかな、という気がしている。


 イスファハーンの絨緞屋については、いろいろ言う人もいようが、結局皆やっていることは誰も大して変わりがない。まず親切に扱って、機会があればビジネスをさせてもらおう、というところだろうか。もしこれを読まれた方が現地に行き、いろいろな話を聞いて判断に迷ったら、とにかく自分が信用できると思った人とビジネスをし、いったん判断を下したらその判断を保持すべき、というアドバイスを送りたい。私は、ホスピタリティを示しつつ他人の悪口をいう人を信用し切れなかった。NOMADとビジネスをしたのは、ホスピタリティが本物のように思えたし、実際に良い物を見せてもらったから、ということだ。
 私が出会った人は、ビジネスをしなくとも決して怒りはしなかった。話を聞いてみるだけ、ということも可能なはず。いろいろと話をしたうえで判断をすると良いだろう。


 イランには長い歴史があり、素晴らしい伝統があり、美しい遺産もある。かつては『世界の半分』とまで呼ばれたこの国が、近い将来に『世界のもう半分』との交流を密にし、発展していくことを切に願う。


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