Shiraz

 08:30に起床。久しぶりにまとまった睡眠を、しかも足腰を伸ばしてとることができ気分爽快。このホテルでは朝食が出ないが、もともと食べる習慣もないので気にならない。昨日、ガイド代や入場料などでかなりのリアルを使ったので、いったんホテルに預けてあるパスポートを返してもらい、両替を行なうBank Melli Iranへ。しかし、表示がペルシア語でしか書いておらず、何がなんだか分からないので、やむを得ず民間業者へいき、USD$40を316,000Rlsに換える。銀行とレートがほとんど同じだし、パスポートを出す必要もないので便利。
 いったんホテルへ戻ってパスポートを再び預け、もう一度ハーフェズ廟へ行くために、ガイドブックにある通りに道筋を辿ると、おっさんがバスのチケットを売っていたので、5回分を1,000Rlsで買う。バス乗り場として教えられたほうにいくと、確かにバスが止まっているが、路線番号を示すペルシア数字ではなく、ハーフェズ廟のマークがついている。(シーラーズに限らず、イランではバスの路線番号はペルシア数字のみで表記されている。また、紙幣はペルシア数字とアラビア数字の併記だが、硬貨はペルシア数字のみ。)客に聞いてみるとハーフェズ廟にいくらしいのでそのまま乗る。マイクロバスで、男女一緒に乗ってしまうが、何となく分かれて立っており、まして男女が並んで座ることもない。10分くらい乗っていると、客が『ここで降りるんだよ』と教えてくれたので降りようとすると、運転手に呼び止められた。料金を払えというのでチケットを出すと、それではないという。どうやら別系統だったらしい。200Rlsを現金で支払った。もったいない…といっても5円ほどだけど。


 再度30,000Rlsを支払い

ハーフェズ廟
の中へ。咲き誇るスミレと緑が夜とは違った美しさを見せてくれる。平日というのに家族連れの姿も多い。ハーフェズの棺が安置されている
あずまや
では、ハーフェズの詩と思しき書物を熱心に読んでいる人もいる。ハーフェズは、特に恋愛や快楽を詠んだ詩に長じており、その詩集を使った占いまであるそうな。
壁際
にはグループやカップルの姿もあり、平和そのもの。昼は緑と水の穏やかな雰囲気を、夜はエキゾチックな情緒をかきたててくれ、昼夜両方に訪れるべきところだ。
 ここでも日本人の姿は目立つのか、とにかくやたらと声をかけられる。何度『ジャーポン?』といわれたことか。『ナカタ』という声も多い。『ブルース・リー! カンフー!』は何か勘違いしている。書道家らしき
青年
は、私のメモ帳に筆でハーフェズの詩の一節らしきものを書いてくれた。彼は英語も分からないらしく、何て書いてあるのかさっぱりだが、柔らかな線が美しい。パリの辻絵描きのように金を要求するのかと思ったが、ただでいいとのこと。思わぬお土産が出来た。彼の周囲にいる何人かは、私にペルシア語で話し掛けては何やら笑っていた。悪意はなさそうで、ただからかいたかっただけらしい。
 しばらく写真などを撮った後、奥にある中庭風の
チャーイハーネ
へ。チャーイハーネはイランの喫茶店で、それぞれ独特の雰囲気があるとのことだ。ここも、中央に水を湛えた池を、周囲に木々を、壁際の窪みなどに胡座で座れる席を配し、良い雰囲気。店員らしき小学生くらいの子供が寄ってきて『チャーイ?』というので、とりあえずもらうことにする。すると、先ほどの一団が一部メンバーを変えて座っていたので、そこに同席させてもらうことにする。ほどなくチャーイが届き、2,000Rlsを支払う。すると、どこからかやってきた男が『水タバコを吸ってみないか?』と持ってきた。遠慮したのだが、いつの間にか周りに集まってきた客も囃し立てるので後に引けなくなり、試してみるが、幸か不幸か煙が出てこない。周りの客は大喜びだが、勧めた男は諦めたのか自分で吸い始めた。チャーイを楽しみつつ、英語を使える人たちとおしゃべり。これがイラン人の最高の娯楽らしい。いつのまにか子供まで寄ってきて、デジカメをしきりに気にしている。写真を撮るととても喜び、大人は驚いていた。撮った後すぐに見られるのが珍しいらしい。とにかく、歓迎されているのかからかわれているのか、ホテルを出ると何処へいっても一人で落ち着けるということがない。
 十分に休んだのでハーフェズ廟を後にし、先ほどと同じマークのバスで街中へ戻る。今度も、後ろの客が『終点だよ』と教えてくれたので200Rlsを支払って降りると、見慣れない広場だった。ガイドブックによれば
エンゲラーベ・エスラーミー広場
(『イスラーム革命』の意)らしいので、方向感覚を頼りにザンドらしき通りをホテル方面へ。陽射しは刺すというほどではなく、むしろじりじり照り付けられているような感じ。乾燥しているので不快感はさほどでもなく、汗もあまりでない。ガイドブックを持って立ち止まっていると、女性が『どうしたの?』と聞いてくれたので方角を訊ね、間違っていないことを確認して歩き出す。徐々に
商店
も増えてくるが、やはりいまいち饐えた雰囲気だ。通りのところどころにまで祈るための
建物
が設けられており、その壁にはしっかりホメイニー師やハータミー師らの肖像画が描かれている。15分ほど歩くとホテルのある通りとの交差点に出たので、それを少々過ぎてPars Pizzaでハンバーガーとコーラの昼食を摂る。9,000Rls也。ここでも、英語を使える人に話しかけられる。12:30頃にホテルに戻り、午後は一休み。日中は暑いし、陽射しも強烈なので、あまり外に出ないほうが良さそうだ。


 15:30に起き、見所の一つであるエラム庭園へ。ここは市中から離れたところにあるのでタクシーを使う必要があるのだが、ホテル前でたむろしているドライバーに声をかけたところ『10,000Rlsでどうだ?』という。高いとは思ったが、他に探すのも面倒なので乗る。10分ほどでエラム庭園へ。ここは、19世紀に建てられた小さな宮殿と庭園で有名なところで、エラムとは『楽園』の意味である。30,000Rlsを支払って中へ。植物園を抜けていくと、ほどなく

宮殿
が姿を見せる。きめ細かい壁画や彫刻に彩られ、繊細な美しさを見せてくれる。宮殿の前には満々と水を湛えた池が配され、そこから階段状に水が流れ落ちていく。
水路
の両側には花や杉が配され、幾何学的な中にも安らぎを与えている。宮殿と庭園が見事に調和し、まさに楽園ともいうべき瑞々しい雰囲気を提供している。庭の中に十字に水路を配し、その周囲を花や木々で飾っていくのがペルシア風の庭園の作り方なのだろうか? 水路の傍では家族連れや友人グループが楽しそうに、木々の影のベンチではカップルと思しき男女が仲良さそうに過ごしている。日が傾くにつれ、宮殿の写真を撮りにくくなったので、17:00に宮殿を後にする。
 さて、ここから市中にどうやって戻れば良いのだろうか? 停まっているタクシーに声をかけたところ断られてしまい、バス停も見当たらない。これまではどこからか現れてくれた救いの手も現われないので、地図でみると4kmほどでもあるし、歩くことにする。道筋にあたるエラム庭園通りは高級住宅街なのか瀟洒な家が多い。低い建物・緑の濃い椰子などの街路樹・強い陽射しは、なぜかアナハイムを連想させる。15分ほど歩くとアーザーディー通りと交差するので右に曲がり、
ホシュク川
(『涸川』の意)を越えると、先ほども来たエンゲラーベ・エスラーミー広場へ。ここからはさっきと同じで、17:40にはホテルに戻ることが出来た。それにしても、やはり救いの手なくしては旅も容易ではない、ということを再確認する一幕だった。まぁ、残った見所は全て徒歩圏なので、交通機関を使うこともないのだが。


 夕食を摂るために19:00に外出。昨日Mortezaに教わった、近くのRudaki Hotel地下のレストランに行こうと思ったのだがまだ開いていない。ガイドブックに出ているザンド沿いのレストランに行ってみるがここも開いておらず、いっそホテルのレストランにするか、と戻ってみるとRudakiのレストランが開いていたので入る。地下にあって、いかにもペルシア風隠れ家といった感じの

内装
はいい雰囲気。イラン名物の
アーブ・グーシュト
にトライすることにした。これは、肉だの豆だのジャガイモだのを煮込んだスープを、いったん具とスープに分けてよそり、具は棒ですり潰して混ぜ合わせ、スープのほうには薄焼きのナーンを千切ってぶち込んで食べるという料理だ。じっくり煮込んであるとみえ、味が染み込んでいて美味しい。ハンガリー名物のグアーシュからパプリカを抜いたような味だ。その他、サラダバーもついていて、量もたくさんある。とても食べきれるものではないが、ウェイターには『いい食べっぷりだ』といわれた。チャーイももらい、〆て28,000Rls也。相場よりは高いのだろうが、高級店だし、欧米の感覚では信じられないくらい安いということでいいだろう。なぜか、胸に差してあるボールペンをウェイターが欲しがるのであげた。書きやすくて良いペンだったのだが、代わりにホテルのペンをもらうことにしよう。
 部屋に戻りTVをつけると、CNNはSep.11th anniversary特集を、イランの局はホメイニー師の演説を、そしてアル・ジャジーラ(初めて観た)は…なんだかさっぱり分からなかった。
 食費などはとてつもなく安いのだが、観光名所の入場料が意外に高いので、それなりにお金を使っている。どうやら、外国人向けに高い料金が設定されているらしい。もうガイドを使うことはないけれど、お土産の買い物を考えると、もう1回くらい両替する必要があるかもしれない。
 それにしても、日中の暑さ、会話はおろか文章の類推すら出来ないことに加え、何処にいても見つめられたり話し掛けられたりして、けっこう気疲れする。これまでの旅行よりも負担を軽めにすることを心がけ、日中に小休止を入れていくのがいいようだ。しかし、明日は14:00までにチェックアウトしなければならず、昼寝が出来ない。イスファハーン行きの飛行機に乗るためのピックアップは20:45なので、昼前くらいまで休んで午後に外出し、必要とあらばホテルのロビーなどで休ませてもらうことにしよう。健康第一、無理は禁物である。

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