Prologue

 もはや『一人旅なくして生きている甲斐もなし』な私は、毎年正月からGWくらいまでに行き先を決めている。しかし、今回はTBS系列『世界遺産』の『クレムリンと赤の広場』を観た瞬間、そのあまりの美しさに、既に訪れた場所であるにもかかわらず『もう一度クレムリンに行こう!』と決めてしまった。5年前の初めての一人旅で訪れたモスクワ、やはり特別の思い入れがある。あの時と比べれば私もいろいろ変わったし、モスクワも変わっているはずだ。(5年前といえば、BayStarsは日本一になったんだけどなぁ…) 旅行経験もカメラの性能も(多分)腕も多少は上がっている。節目としてそれらを振り返ってみるのも悪くない。
 とはいえ、一度行ったモスクワだけでは何か物足りない。そこで、前回行きそびれた旧ソ連圏の中から、キエフ・リヴィウに行くこととした。ついでに、セルギエフ・ポサドにも行くこととする。本当は、ヤースナヤ・ポリャーナにもザラトーエ・カリツォーにもオデッサにもヤルタにも行きたいのだけど、それは次の機会ということで。…こうして、年に1回の旅行を実現する間に、行きたいところが3箇所は増えていく。
 手配は、今回はユーラスツアーズにお願いした。細かい問い合わせにも丁寧に答えてくれ親切。やはり秋が最も綺麗ということなので、9月下旬に旅行することとしたが、World Weatherを観ると最低気温が10℃を下回るようで、秋といっても晩秋であろう。
 手配の過程でも変化が伺える。中でも、アエロフロートのリコンファームが不要となっていたことには驚いた。リコンファームは毎回悩みの種だし、昨年はテヘランでえらい目に遭ったので、これは嬉しい。もっとも、ロシアのやることだけに不安がないものでもないが。ボリショイ劇場もサイトを開設し、あまつさえクレジットカード決済によるチケットのオンライン購入までも出来るようになっている。09/26(Fri)夜のバレエ"Notre-Dame de Paris"の1階席のチケットを1,600ルーブルにて購入。(もう1週間早ければ、オペラ"The Queen of Spades"かバレエ"Giselle"かという、団十郎の『助六』か『勧進帳』か、というような究極の選択を楽しめたのだが。)Order #が表示されているcertificateのプリントアウトと購入に使用したクレジットカードを持って当日に劇場に行けばチケットを受け取れることになっているらしいが、上手くいったらお慰みの心境である。


 フライトは12:00発のSU576. モスクワ経由パリ行きの便である。08:30に成田に着いたところチェックインは09:30開始とのことなのでしばしうろつく。かなりの混雑で、既に出国審査や両替は長蛇の列。(なぜ予め両替してこないのかどうにも理解できないが。)カウンターが開いてすぐにチェックインする。3年前に作ったアエロフロートのマイレージが初めて役に立った。しかし、モスクワ発キエフ行きのSU169は成田ではチェックインできず、モスクワで改めてする必要があるとのこと。荷物だけは一足先にキエフまでチェックインしてしまい、何となく不安が残る。出国審査は既に長蛇の列で、南北ともに5列以上で端まで行列が伸びてしまっている。結局、通過までに1時間以上かかってしまった。余裕を持っていたからいいようなものの… こんなことは初めてである。もしかして、日本の景気は回復しつつあるのだろうか? 台風の影響か、雨は激しくなる一方で、台風が半日早く動いていたら危なかっただろう。
 フライトはそこそこ快適。足元が広いため、寝やすい。寝ているうちに、定刻より30分遅れの17:30(時計が5時間戻る)にモスクワ着。ユーラスツアーズからもらった案内には、『"Transit"と書いてあるほうに進み、そこのカウンターでキエフ行きに改めてチェックインしてください。』とあるが、降りたところからすぐ近くにあるTransitカウンターには誰もいない。モスクワで降りる日本人のグループは"Exit"目指して消えてゆく。モスクワ観光客がこんなに多いとは驚き。そうこうしているうちに、ロンドン行きに乗るという夫婦が英語を使えるスタッフを見つけたらしく、そのスタッフについてビルの外周を歩いてゆく。と、そこにも全く同じ造りの"Transit"のカウンターがあるではないか! これだからロシアは侮れない。早速、キエフ行きにチェックインし、ついでその後ろにあるImmigrationでボーディングパスにスタンプを捺してもらった。(慌てていたのでマイレージカードを出すのを忘れてしまった…)その直後、

カウンター
はあっという間に長蛇の列に。 指示されたとおり、ぼーっとシェレメチェボI行きのバスを待つ。宇都宮で事業をやっているというおっさんがいた。何と、キエフにいる彼女のところに遊びに行くのだという。何度もtransitを経験しているとのことで心強い。それにしても、ウクライナ語・ロシア語はおろか、英語もほとんど使えないのに、ここまで出来るんだなぁ。考えさせられる。
 18:30に、スタッフから『キエフ…』とか何とか声がかかったのでついていくと、下の階でバスに乗せられ、
空港敷地の外周
をがたごとと運ばれていく。20分ほどでシェレメチェボIに到着。そのまま、いかにもソヴィエトな
待合室
に押し込まれ、ひたすら待たされる。意外なことに、中国人がたくさんいる。例外なく、大荷物をいくつも持ち(これはロシア人も同様)、しかもなぜか電気炊飯器を持っている。さきほどのおっさん、そして心臓外科医のロシア人と世間話をしつつ過ごす。このおっさん、税関突破のために$100握らせて黙らせたとか、武勇伝をたくさんお持ちで面白い。ここまでもビジネスクラスで来たようで、お金持ち。
 20:45に、心臓外科医が『キエフ行きが呼ばれた』というので、改めて手荷物検査を受け、ボーディングカウンターへ。しかし、ここにはビシュケク行きも混ざっていたらしく、最初に呼ばれたのはビシュケク行きだった。ドアが開くと思いがけない寒さ。スタッフも毛皮の襟巻きを身につけている。吐く息も白くなる寒さ。予想外である。21:20にキエフ行きが呼ばれ、またもバスに乗せられる。機材はTU-154でとにかく狭いうえ、どいつもこいつも大荷物を持ち込んでいるので詰め込みに大騒ぎ。自分の席(通路側)に座っていると、中国人が中国語で何度も話しかけてくるので、『我是日本人』というと黙った。1年近くやっている中国語が初めて役に立った(^^; 電気炊飯器と大荷物を何とか椅子の下に押し込めたものの、足を伸ばす隙間もなさそう。と、今度は隣のチケットを持っている大荷物のロシア人がロシア語で話しかけてくる。どうやら、『荷物が大きいので席を替えてくれ』ということらしいが、中国人のせいで足を伸ばせない席に座る気などないので、理解できないふりをして自分の席を死守した。そんなこんなで21:50に離陸し、22:30(時計が1時間戻る)にキエフ・ボリスピリ空港に到着。
 さて、『地球の歩き方』によれば、ウクライナでは全ての外国人に保険への加入を義務付けているとのことで、入国審査の前に加入しなければならないらしいのだが、どこを見渡してもそれらしいものがない。そのままPassport Controlに並ぶことにするが、なぜかユダヤ人の団体がぐちゃぐちゃに並んでおり、その後ろにつくとえらいことになりそうなので、出来るだけ離れた列に並ぶ。さくさくと順番が廻ってきて、機内で配られ予め記入しておいた出入国カードを提示するが、何とこれではだめで、Passport Controlの手前のカウンターに置いてある用紙を使えという。機内で配られたものは、ウクライナ語とロシア語で書いてあり、カウンターにあるものは英語で書いてあるのだが、項目は同じ…だと思う。ま、この程度の不条理は旧ソヴィエトなら有り得ることだ。書き直して改めて提示すると今度はあっさり通過。Baggage Claimに進むと、ちょうど目の前を自分の荷物が通過したのであっさりとピックアップ。次いで、日本でもらった用紙に予め記入しておいたので税関審査へ。米ドルで現金$1,000相当以上を持ち込むと申告の必要があるのだが、そんなに持ち込んではいないのでこれもあっさり通過。ゲートを通過すると、予め手配しておいたtransferが名前を掲示してくれていたので合流。すぐに車に乗り込み、まずは09/24(Wed)のリヴィウ行きと09/26(Fri)のモスクワ行きのフライトのチケットをもらう。時計を見ると23:15で、何とか今日中には部屋に入りたいところ。
 空港からの道はとにかくまっすぐで、どの車もえらいスピード。私の車も100kmを超えていた。20分も走ると大きな川(恐らくドニエプル川だろう)を越え、丘を登るような道へ。すると、ヨーロッパの古い街並みが現れる。もうキエフの中心部に入ったらしい。5分ほどで"Ukraine Hotel"へ到着。09/24(Wed)の10:30にロビーでの待ち合わせを約し別れる。そのままホテルへチェックイン。バウチャーも間違っておらずちゃんと部屋が割り当てられて一安心。登録のためにパスポートを預けるのも相変わらず。と、鍵ではなく、ルームカードのようなものを渡された。まず、ホテルの中に入るために門番にこのカードを見せ、7階にいるヂェジュールナヤ(フロア毎に24時間待機している鍵番のおばさん)にもこのカードを見せて732号室の鍵を受け取れとのこと。旧ソヴィエトのシステムそのままだが、治安の面では安心できる。
 部屋は…何というか、ソヴィエト(^^; ドアの建付けの悪さや水廻りがいかにも、である。鍵もオートロックではなく、中から自分でかけねばならない。しかし、少なくとも湯は出るし、TVなどはGuestLinkのシステムを採用していてTVだけでも20局以上映るし、ネットも使えるらしい。ロケーションもいいし、これ以上を望むのは贅沢である。待望のシャワーを浴び、少々空腹ではあるが01:30に寝る。寝ているうちに寒くなってきたので備え付けの毛布3枚をかけた。明日から大丈夫だろうか?
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