昨年の一件で『行きたいところには、行けるものならば早い時期に行っておくべき』という認識を改めて抱いた。今、自分の中で最も行きたいところを考えた結果、今年はモスクワ郊外の『黄金の環』に行くことに決めた。
『黄金の環』は、モスクワの北東200~300kmくらいのところに点在する古いロシアの建築などが残っている古都群のことで、ちょうど環のような形で存在することからこの名がある。旧き良きロシアを味わうためには最高の場所であろう。ただし、あくまで環のように存在するというだけのことで、街と街を結ぶ交通は必ずしも便利ではなく、英語もほとんど通じない。旅に精通したバックパッカーかフルアテンドのパックツアーでもない限り、全ての街を効率よく周るのは難しい。そこで今回は、『黄金の環』のハイライトともいうべきスズダリと、その入り口となるウラジーミルを訪れることとした。
手配は、いつもお世話になっているユーラスツアーズさんに今回も依頼。個人旅行の手配なんてあまり儲からないだろうに、些細な質問にもきちんと答えてくれるので安心して任せられる。
『手配できるものは全て事前に手配し、調べられることは出来るだけ調べておく』のが私の旅のモットーである。我が師・池波正太郎の旅のスタイルから学んだことだ。現地で不必要なトラブルに巻き込まれるよりも、一見窮屈ではあってもこの方が旅を満喫できる。今回も、往復の航空券・全てのホテル・全ての交通手段の手配をお願いしたかったが、ウラジーミルとスズダリの往復の交通手段だけは、現地で手配しなければならないとのことだった。ローカルバスで約30km(約1時間)だし、1時間に1本は出ているとのことなので、まぁ何とかなるだろう。(何なら車を手配してもいいと考えている。) 結局、モスクワ1泊→ウラジーミル1泊→スズダリ2泊→ウラジーミル1泊→モスクワ1泊 という、私にしては慌しい旅程となった。6泊8日を上限として、事前に手配できるものから組んでいった結果であるし、スズダリにはどうしても2泊はしたかったので、満足である。また、列車のチケットはシェレメチェボ2空港の到着ロビーにある現地手配会社"ACADEMSERVICE"のカウンターでの受取となった。
『黄金の環』を旅するとなると『地球の歩き方』では心もとない。今回は"Lonely Planet"(以下"LP")の他、waytorussia.net や allvladimir.ru などのプリントアウトも持って行くこととした。さらに、所持金や航空券を全てやられてしまった際の最終手段として、モスクワに現地法人を持っているみちのく銀行東京支店に口座を開設し、資金取り寄せサービスの申し込みをしておいた。こうすることで、モスクワの現地法人に出向いて資金取り寄せを依頼すれば、翌日には東京支店の自分の口座にある資金を引き出せる。これで、正規運賃で帰りの航空券を買えるだけのお金を入手しようというねらいである。これが役に立つようなことがないことを切に願う。
12:00発のSU582にてモスクワへ。モスクワ経由ロンドン行きのフライトらしく、チェックイン時には『モスクワまでで本当によろしいんですか?』と訊かれた。席は通路側で、しかも隣の席が空いており、足を伸ばせる幸運に恵まれた。しかし、なかなか離陸せずに、ずっと成田のタキシングをうろうろ。これがJLあたりなら頻繁に状況説明があるだろうが、何の説明もなし。既にロシアとのたたかいは始まっているのだ。結局、45分ほど遅れてようやく離陸。機内食のサービスはあるが、映画などのサービスは一切なし。約10時間のフライトにもかかわらず、食事以外のサービスでCAが周ることもないし、喉が渇いたのでcallしても応答なし。既にロシアとの(略) たまたま別の用事で通りがかったCAに要求してようやく水を飲めた。
これまでは、機内での退屈しのぎに文庫本を何冊も持ち込んでいたのだが、今回はiPod Shuffleに落語をいくつも入れて持ち込んだ。これが大正解で、志ん朝師匠や志ん生師匠の名人芸に笑っているうちにどんどん時間が過ぎていくし、全くかさばらない。素晴らしいデバイスを創ってくれたAppleに感謝。今回の旅ではのんびりと過ごしたいので、その意味でも落語はいい選択だった。
17:40(時計が5時間戻る)にモスクワ・シェレメチェボ2空港に着陸。さぁ、気合を入れていかねば。まずは入国審査。現在、ロシアには2種類の出入国カードがあるような形になっており、ユーラスツアーズさんが予め作ってパスポートに貼付してくれた出入国カードと、機内で配られて(アエロフロートは旅行会社にカードを渡してくれないらしい)自分で記入した出入国カードの2種類を持って審査に臨む。7年前は審査にえらく時間がかかったが、今回はすんなりと通過。結局、機内で配られたほうのみが使われたようだ。出国カードはただの紙切れにしかみえないが、この裏に宿泊先ホテルの登録が行われるので、絶対になくしてはいけないものである。
続いて機内預け荷物の受け取りだが、まだ全く出てこないどころか、SU582のターンテーブル指定もされていない有様。15分ほど待つと、突然ターンテーブルの一つが動き出したので、載っている荷物のタグを見ると"SU582"からの荷物が出ていることが分かり、そのターンテーブルの側で待つ。5分後、そのテーブルがSU582からの荷物であることの表示が出た。ようやく出てきた荷物をピックして税関審査へ。ユーラスツアーズさんから『パソコンやデジカメは念のために申告したほうがいいかもしれません』と聞いていたので、Red Lineに向かうが、係官は『ノートパソコンなら申告しないでOKだ』というのでGreen Lineへ。ほんとかなぁ… ここでは何の検査もなく、いよいよ到着ロビーへ。
ここは出迎えの人と白タクで混雑している。ただ、7年前はここの薄暗さに驚かされたが、照明はかなり明るくなっていて、それだけでも安心感がある。私の名前を出している人はいなかったので、"ACADEMSERVICE"のカウンターに行き、係の女性に名乗ると、お願いしていたモスクワ-ウラジーミル往復の列車のチケットを出してくれた。日付・出発時刻・出発駅と到着駅が正しいことを確認したうえで、該当のバウチャーを渡す。さらに、ホテルまでのtranferを手配しているので、その分のバウチャーを渡すと、到着ロビー外の停車場まで案内してくれ、ここでドライバーに引き継いでくれた。この到着ロビーは、ある意味ロシアの象徴のように思える。一応、誰かが決めたルールがあるのだけど、それが煩雑だったり矛盾していたり非現実的だったりして誰も守らず、車は狭いところに二重駐車していたり人はお構いなしに横断したり、無秩序そのもののように見えるのだけど、それでも何となく物事が進んでいくのである。
ドライバーはロシア語しか話さないが、自己紹介やいくつかのフレーズは分かるので返事をすると『お前はロシア語を話せるじゃないか。素晴らしいことだ!』と喜ばれてしまった。中心街への道を100km/hほどで『ボルガ』(旧ソ連製の乗用車)が疾走する。道沿いには、アメリカにありそうな巨大なショッピングセンターがいくつも出来ている。2年前よりもさらに街の雰囲気が明るさを増しているように思えた。しかし、旧ソ連時代の高層アパートはぼろっちいままで、こちらの改装にまでは手が回らないのだろうか。
中心街に入ると、目的地のホテルまでの道順を通行人に聞きながら進む。おいおい。それでも、19:30には今夜の宿泊先である"Hotel Budapest"に到着。バウチャーを出し、チェックインも順調。ロシアでの必須項目である登録手続きのためパスポートを渡す。いつ頃手続きが終わるかを訊ねると『30分後には終わります』とのこと。素晴らしい。『3時間かかる』と言い、文句を言うと『パスポートなしで外出すればおっけー』などと言い放ったホテル・ロシアとは大違いだ。316号室の造りは、昔の建物を活かしつつ、空調や水廻りなどはきちんと押さえてあって快適。このロケーションでこの造りでこの値段ならば、かなりお勧めのホテルといえる。
20:00にパスポートを返してもらって周囲をぶらつく。気温は約20℃で、陽も傾いてはいるがまだ陽射しは眩しい。隣はカジノで妖しげな看板が輝く。ちょっと歩くとペトロフカ通りに出るが、ここは高級ブランド品の店ばかりで、両替や水売りのスタンドは見当たらない。あちこちで建て直しの工事が行われており、ドリルの音が響く。結局、通り沿いにある真新しいホテル『マリオット・オーロラ』にて、USD$100を2,800ルーブル(以下"P")に両替。ちょっとレートが悪いが止む無し。さらに歩いて、クズネツキー・モスト通り沿いにあったスタンドで水0.5l×1本と1.0l×1本、さらに何だか分からないが大きなピロシキのようなものを計50Pで購入しホテルへ戻った。ピロシキもどきは軽く揚げてあり、中には挽肉が詰められていた。スタンドのおばちゃんがオーブンに入れてくれたので温かく、なかなか美味。今日はこんなところで十分だろう。
気になっていたのが暗くなる時間。どうやら、21:20くらいには暗くなるようだ。明日は、ウラジーミル駅到着が20:30の予定で、駅からホテルまで約1.5kmほどはありそうなので、暗くなる前にホテルに入れるか若干不安である。まぁ、ウラジーミルで一番の大通り沿いにあるので、分かるとは思うが…
明日は、18:04のウラジーミル行きの列車まではモスクワを観光。これまでに行っていない名所をのんびりとぶらぶらしたい。
ところで、土曜日の23:00だというのに、まだ何処かからドリルの音が聞こえてくるのだが…