Fes

 05:30に目が覚める。4時間ほどしか眠れなかったことになるが、荷物を整理したりシャワーを浴びたりと、結果的にはむしろ上手くいった。06:30に下へ降りて朝食。さすがに温かい料理はまだ出ていなかったが、ハム・パンなどを摂る。フルーツ類の美味さは特筆もので、かなり甘みが強く、多めに摂っておいた。
 07:00にチェックアウト。悪いホテルではなく、カサブランカに戻ってきた折に再び泊まることにも不満はない。10分後に昨日のドライバーが来てくれたので車に乗り、駅を目指す。気温は20度くらいで暑さはない。日曜の朝で人通りも少なく、近代的な町を縫うように走っていくと、15分ほどで駅へ。それほど大きくはない駅で、表示こそアラビア語とフランス語しかないが、迷いようもない。フェス行きの列車が出る

プラットホーム
番号を教えてもらってドライバーと別れる。キオスクで1.5lの水を買う。6DH也。
 08:15に列車が出るはずなのだが、まだ来ない。またも遅れか? 駅員に訊いてみても『ここで待て』としかいわない。10分後に列車が来た。今回は全て一等車で、コンパートメントも席も予め指定されている。コンパートメントは6人がけで、エアコンも入っており、ドアもついていて、予想以上に快適。さらに、私以外に誰も来なかったので、ゆったり過ごすことが出来る。15分遅れの08:30に発車。


 20分ほども走ると街並みも絶え、広々とした野原の光景となった。なだらかな起伏の丘陵、茶色くなった草原の所々で、羊や牛やロバや馬がのんびりと草を食んでいる。放牧しているらしく、横の木陰などで男たちが休んでいる。なんとものどかな光景だ。彼方には海が見える。地図を見ると、この路線は途中まで大西洋に面しているらしい。私の旅行で海を見ることは珍しい。
 途中、何度も駅に停まる。その度に街並みを見ることが出来る。高層ビルなどない、低層住宅が主体の街だ。カサブランカでも気づいたのだが、とにかくどの建物にもパラボラアンテナが複数ついていて、その数たるやものすごいものがある。なぜそれほどにアンテナがいるのだろう? 海を離れると、今度はやや丘が高くなる。雄大な野原が広がる、気持ちのいい景色だ。列車の旅程は時間がかかるので躊躇していたのだが、この景色を楽しめるので満足。途中の街ではバザールのようなものが開かれていたり、子供がロバに乗って遊んでいたり、人の暮らしと自然とを堪能できる、素晴らしい車窓だ。何となく、以前走ったロスからサンフランシスコまでの道路沿いの景色に似ているような気がする。(車窓の風景



 定刻の12:42に

フェス駅
に到着。遅れは途中で取り戻したらしい。駅舎で私の名前を出してくれていたドライバーと合流。外に出ると陽射しが強烈。気温40℃と聞いただけで意識が遠のくような気がした。20分ほどで本日のホテル"Hotel Menzeh Zalagh"に到着。4つ星と聞いていたが、なるほどアラビア風の装飾が施された、リゾートホテルという趣きだ。割り当てられた114号室に入ると、まだベッドメイクが出来ていない。15分ほど休んで、地理感覚をつかむためにいったん外を歩く。灼かれるような陽射しだが、湿度がないことにまだ救われる。しかし、この炎天下で長く歩き回ったら健康を害することは間違いない。午後は休むことにしよう。ホテル近くで見つけたマクドナルドでダブルチーズバーガーのセット。39DH也。ホテル前の商店で水1.5lと0.5lを1本ずつ、12DH也。14:30にホテルに戻り、明朝9時にガイドを手配してもらいたい旨を依頼して、部屋で休む。やれやれ、長い移動を終えてやっと寛ぐことが出来る。


 17:00に再び外出。タクシーを利用することを考慮してホテルのアドレスが書かれたカードをもらっておく。陽は傾きつつあり、日中ほどではないもののまだ陽射しは強い。先ほど寄ったマクドナルドの前がタクシー(赤い車体ですぐにわかる)の溜まり場になっているので、フェス・エル・バリ近くのタクシー溜まり場まで乗せてもらおうとしたが断られた。面倒なので歩いてみることにした。
 レジスタンス広場から延びるムーレイ・ユーセフ通りへ入るが、信号もなく運転マナーも良くない車道を横断せねばならない。こういう時は地元民にくっついて歩くに限る。10分ほど歩くと

王宮の正門
がある。近づくことは出来ないが、遠目にも豪華さがわかる。この辺りから、フェス・エル・ジェディド地区に入るらしく、道が狭く曲がりくねる一方で
商店
が増える。売っているものも実に様々で、観光客相手のお土産から蝸牛の丸焼き?まで。
商店の2階
は住居になっているのか、意外に瀟洒な造りだ。左手に見えてきた
スマリン門
を潜ると、この地区で一番の繁華街となる。往く人、帰る人、立ち止まって商品を見ている人、混沌とした雑踏。様々な売り声と話し声が混ざり、わぁーん…という感じの音に聞こえる。写真を撮りたいが、女性が写ってしまうので諦めて流れに沿って歩くのみ。難しい理屈などない、まさに生活そのものを凝縮したような通りだ。
 突き当たりにあるダッカーキーン門を潜り右に歩くと、広場に出る。ここを過ぎると、フェス・エル・バリの入り口に当たる
ブー・ジュルード門
。鮮やかな濃紺のタイル細工が夕陽に映えて、何とも神秘的な美しさだ。観光客もいるが、往く人・帰る人・屯する人のほうが目立っていて、世界遺産に指定されたとはいえ未だ人々の生活が色濃く残っていることが分かる。何とも嬉しいことだ。(もっとも、この門は20世紀になってから造られたらしく、メディナの歴史に比べれば浅いものではあるらしい。)
 この門の奥に、世界最大の迷宮とも言われるメディナがあるのだが、今日はここまで。メディナには、明朝にガイドとともに挑戦する。門の前がタクシーの溜まり場になっているので、ホテルまで戻ってもらう。10分ほどで戻り、8DH也。


 今回の旅行では、フェスとマラケシュのホテルで夕食がついている。19:30から摂れるのでレストランに行ってみた。外は既に真っ暗となっている。緯度が高いわけではないので、日没についてはロシア旅行と同じ考えで動いてはならない。レストランはブッフェ形式でいろいろな料理があるが、意外にモロッコ料理が見当たらない。温かい物を中心に摂ったが、味も今ひとつ。デザート類も甘すぎて食べられない。それでも、日没までにホテルに戻ることを旅の心得としている私にとっては、夕食に悩む必要がないというのはメリットではある。ちなみに、これが今回の旅行で初めてのマトモな食事だ。


 明日は、午前中にメディナを観光し、午後はホテルで休もうかと思う。この暑さでは、とにかく体調管理に気を使わねばならない。


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