Yerevan

 07:00(ここからアルメニア時間;時計が1時間進む)に、乗務員の女性に起こされた。歯を磨きに行くが、洗面所の蛇口が壊れていて水が出なかった。車窓からは、朝焼けの

アララト山
が美しい。アルメニア人の心の故郷とされ、ノアの方舟の伝説でも有名な山だ。頂上付近が万年雪となっているのか、朝陽に照らされてほのかに赤く染まっている。平野からはるかにそびえている様は、なるほど神性を感じさせる。この景色を観られたのは夜行列車ならのではのメリットだった。ただ、相変わらず体調が万全ではない。持参したオレンジジュースが美味いが、配られたお菓子類には手が出なかったので、日本へ持ち帰ることにしよう。


 定刻より約40分遅れの08:00にエレヴァン駅に到着。この程度の遅れで済んだ、というべきである。事前にはいろいろ心配していたが、入国審査もスムーズだったし、十分に快適に過ごせたし、満足出来る旅だった。記念に

列車のプレート
を撮影。『世界で最も古い街』の一つとされるエレヴァンに着いたこと自体が感慨深い。
 プラットフォームで、これまた日本語の上手なガイドさんに声をかけられ、駅を後にした。この方もエキゾチックな美しい方で、ちょっと(?)嬉しい。エレヴァンについていろいろ教えていただくが、特に赤い花崗岩で造られた建物が多いため、Rose Cityの異名があるというのが興味深い。
 08:20に"Hotel Hrazdan"に到着。ところが、チェックインを扱えるスタッフがいないとかでかなり待たされる。09:15にようやくチェックインでき、ここでガイドさんとは別れた。明日は、13:30にこの方とは別のガイドさんが来てくれるそうな。
 部屋の鍵がなかなか回らない。よく見ると少し曲がっていて奥まで入っていないようだ。力を込めて押し込めるとようやく回った。角部屋で、やたらと広いツインルームだ。そのまま一眠りする。


 11:00に外出。このホテルは街の中心から外れていて、地下鉄の駅も近くにはないので不便このうえない。そのうえ、エレベーターは4人も乗ると重量オーバーだし、部屋でインターネットも使えないし、フロントで両替も出来ない… プールが使えてもなぁ…
 LPの地図を頼りに街の中心を目指して歩く。大きな建物が続き、なかなかに距離がある。ただ、バクーやトビリシと比べると『ヨーロッパ』の色合いが濃い街という印象だ。そして、やはり

赤い建物
が多い。スーパーマーケットでUSD50を18,325ドラム(以下AMD)に交換した。
 エレヴァンで最も訪れたかったところは、郊外にあるエチミアジンである。LPによれば、エチミアジンに行くためのマルシルートカはSarian通りとMesrop Mashtots通りの交差点から出るとのことだったので、そこを目指してMesrop Mashtots通りを歩く。通り沿いには
市場
と、その向かいに
モスクのような建物
(実際にはモスクとしては活動していないそうな。)があった。


 マルシルートカの出発点とされていたところに着くが、停留所の標識もないので、そのまましばし待つ。と、男性から『エチミアジンに行くならそこのタクシーに乗れ。3人乗車で1人当たりAMD300だ。』と身振りで言われた。信用してよいものか逡巡していると、流暢な英語を話す男性が『私もエチミアジンに行くところだから一緒に乗ろう。問題ないよ。』とのことだったので、もう1人の男性とも相乗りで乗ることにした。てっきりイギリス人かと思ったら、ロンドンに16年在住しているアルメニア人とのことで、休暇でエレヴァンに来ているのだそうな。
 道路沿いには、いかにもソヴィエトな団地が点在している。やはり赤い花崗岩で造られているのが今までと違うところか。
 20分ほどでエチミアジンに着いた。AMD1,000を運転手に渡すと、ちゃんとAMD700の釣りをくれた。こういうシステムが確立されているらしい。件の男性が、エチミアジンの見どころである大聖堂まで連れて行ってくれた。(もっとも、迷いようがない道ではあったが。) アルメニア正教の総本山で、約2,000年前までにさかのぼる歴史ある教会である。


 『君の写真を撮るよ』といわれたのでカメラを渡したところ、受け取り損なって落としてしまった! そのまま撮影は出来たが、さて電源を切るとレンズの蓋が閉じない。もう一度電源を入れてもレンズが出てこなくなってしまった。電池を入れ替えたりしても回復せず、疑いようもなく故障である。とても気に入っていたカメラだったのだが、古いカメラでもあり、果たして修理できるか心もとない。それにしても、やはり自分の写真なんか残そうとするのではなかった… 旅行の最終盤(観光は今日が最終日)だったのがせめてもの救いか。今日の撮影はスマートフォンのカメラで代行することとする。先ほどの男性が『好きなように観てまわるといい。私もここに戻ってくる。』というので、いったん大聖堂の入り口で別れた。


 エチミアジンの大聖堂は4世紀頃までさかのぼれる歴史ある建物である。大聖堂の内部は、カトリックともロシア正教ともグルジア正教とも異なる装飾で彩られているが、何がどう違うのか、言葉にするのは難しい。ただ、同じとはいえない、ということが分かるくらいか。そして、最大の見どころは奥にある宝物室である。教会の外にある土産物店のようなところでAMD1,500を支払ってチケットを購入し、宝物室に入った。
 内部には、宝石や金銀で装飾された古い十字架や書物、王冠、杓杖などが展示されている。そして(個人的に)最大の目玉は、キリストを刺した槍の穂先(つまり『ロンギヌスの槍』!)である。菱形をした錆びた小さなもので、決して螺旋構造から穂先が二股に分かれていたりもしていないし、空母で運ぶような巨大なものでもない。朝のガイドさんによれば、これが本物ということなのだが… 決して豪華なものではないが、しばし見入ってしまった。(


 13:00に大聖堂の入り口に戻るが、15分ほど待っても先ほどの男性が戻ってこない。きちんと御礼と挨拶を申し上げていないのは心残りだが、周囲を探してもいないので、諦めてエレヴァンに戻ることとした。降りたところに戻ると、ここでも『エレヴァン?』といわれ、既に待っていた親子連れ2名とともにタクシーに乗った。約20分後の13:45に、Mesrop Mashtots通りのモスク?前に到着した。


 昨夜から固形物を食べていないので空腹だが、消化器系に自信を持てない状態なので、カフェが多いというオペラ座周辺を目指して歩き始める。Mesrop Mashtots通りはエレヴァンの目抜き通りの一つらしく、店も人通りも多い。(

) 約30分ほどで
オペラ座
前の広場に着いた。屋根をつけたオープンカフェが何軒もある。チョコレートならば消化にも栄養補給にも好かろうと考え、"Shokoladnica"に入り、エスプレッソとチョコレートケーキを注文。どちらも本格的でとても美味しかった。計AMD1,650を支払った。
 この近くに、エレヴァン最大のランドマークである
カスケード
がある。巨大な階段状の構造物で、頂上には戦勝50周年記念碑がある。が、外から眺めただけでその巨大さ(と無機質さ)に圧倒されてしまい、昇る気が失せてしまった。エスカレーターで昇れるらしいのだが… ブカレストの『国民の館』以来、巨大すぎるものに拒否反応を覚えるようになった。


 ぜひとも地下鉄に乗ってみたかったので、もう一つの見どころである共和国広場に行くために、15分ほど歩いて

Yeritasardakan駅
へ行った。エレヴァンの地下鉄はまだICカードを導入しておらず、ジェトンというプラスチックのコインを用いている。1枚当たりAMD100だったので、1枚を持ち帰るつもりで2枚を購入。見慣れた、無機的なエスカレーターに乗って深く深く潜り、これまた見慣れた車輌に乗る。Hanrapetutyan Hraparak(共和国広場)駅で下車。社会主義地下鉄ともしばしのお別れ、名残惜しい。(毎日乗るのはご容赦いただきたいが。)
 共和国広場は、エレヴァンの扇の要のような位置づけになっていて、これまた旧社会主義国で見かける重厚な建物に囲まれている。エレヴァンではこのような建物が本当に多い。(


 もう一つの目抜き通りであるAbovysan通りを行く。土産物店などが多い賑やかな通りだ。さらに、新しく建設された

Hyusisayin通り
を歩いてみるが、こちらはまだ建築の途中なのか、がらんとしていて活気がない。歩いても気分のいいところではないので、Abovysan通りを共和国広場方面に戻ることにした。洒落た建物にカフェやブティックなども多く、街路樹も多くて心地好い。本当にヨーロッパの街角に近い印象だ。こんなに賑わっている通りの近くに、わざわざあんな通りを造っているのだろう?(


 共和国広場に着くと既に陽が傾き始めていた。今回の旅も間もなく終わりを迎える(はず)。旅の終わりはどうしても感傷的になる。(


 未だ消化器系に自信を持てないので、夕食も軽いものにすることにした。三度Abovysan通りを行き、LPには『軽食もある』と紹介されていた"Cafe Central"に行くが、メニューには飲み物しかなかった。せっかく訪れたのでカプチーノを頼むが、本格的で美味かった。カフェのスタイルなどをみると、エレヴァンはパリに憧れているような気がする。("Merci"も人々の間で一般的に使われている。) AMD1,000を支払った。
 カスケード近くの"Santa fe city"でクレープを提供しているので、ここでバナナクレープとアールグレイを注文した。アールグレイは、なんと葉から抽出する本格的なもの。リプトンばかりだったのでこれは嬉しい。クレープは、ちょっと焼きすぎだったが、甘すぎることもなく悪くない。計AMD1,800を支払った。会計に15分ほど待たされたことを除けばなかなかいい店だった。


 19:00になっているので、ホテルに戻ることとする。LPの地図にしたがって歩くが、やはり距離がある。20分ほども歩いて、ようやくホテル側のParonyan通りに出た。夕陽と、はるかに見えるアララト山のコントラストが美しい。この景色がエレヴァン最大の見どころだろう。19:30にホテルに戻った。(



 明日は、いよいよ帰国のための移動日である。13:30にガイドさんがやってきて空港まで送ってくれ、15:55発のSU194でモスクワへ、さらに20:00発のSU575で成田へ戻る予定である。毎年思うことであるが、まだまだ旅を続けたいものの、帰国の予定となっている以上は、恙無く帰宅できることを願う。


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