Prologue

 なぜか、今年は旅先をなかなか決めることが出来なかった。昨年のイスラエルの印象が強過ぎたせいか、候補はいくつもあるのに、何処も決め手に欠けているように思えた。逡巡を重ねた末に、いつものように『いちばん行きたいところ』をじっくりと考えた結果、キジ島の木造建築群を観たい!という結論に達した。それに加えて、モスクワとサンクトペテルブルクを訪れるというプランに決めた。考えてみれば、モスクワは8年ぶり、サンクトペテルブルクにいたっては15年ぶりに歩くことになる。きっといろいろと変わったことだろう。変わったものと変わらないもの、両方を観るのが楽しみだ。
 手配は、いつもどおりユーラスツアーズさんに任せて安心。今回は、アエロフロートよりも大韓航空のほうが安いということなのでそちらを使うことにする。大韓航空にはサンクトペテルブルク-インチョン間のフライトがあり、サンクトペテルブルクの出発は深夜なので、最終日まで観光できるうえに、シェレメチェヴォでの乗り継ぎを避けられるメリットも大きい。
 旅の手配を終え、細かい旅程を立てる間も、特に高揚感もなく、淡々と出発を待っている感覚のまま、出発当日を迎えた。興奮している必要はないが、油断でなければいいのだが。


 0935発のKE706でインチョンへ。成田空港も機内も満員だ。予定より30分早く1130に到着。そのまま乗り継ぎカウンターへ向かい、手荷物検査を受けて、1200にはトランジットエリアへ。ここまでは、きっかり1年前と同じ行程で既視感。それにしても、この空港を訪れるたびに、本来は日本の空港がこうあるべきだった…という思いがこみ上げてきて悔しくなる。韓国の商品や文化をアピールするショーケースとして十全に活用されている。
 免税店を歩くが、特に買いたいものもない。『歴史を忘れた民族に(ry』Tシャツでもあれば買ったのだが。昨年は昼飯にビビンパを食べた記憶があるが、今は空腹でもないので、コーヒーを飲みながら搭乗案内を待つ。
 1305に搭乗開始。ところが、管制塔から離陸許可が出ないとかで、なかなか離陸しない。結局、定刻より1時間遅れの1430に離陸。モスクワで乗り継ぎを組み込んでいたらさぞ焦ったことだろう。あとはひたすら眠る…時差を考えると、あまり眠り過ぎるのもよくないのだが、眠いものは眠い。
 離陸が遅れたのに、なぜかほぼ定刻通り、1745にモスクワ・シェレメチェヴォ空港に到着。ターミナルDでロシアに入国するのは初めてだ。昔とは大違いの綺麗なターミナルビルを歩いていく。ロシア入国に際して必要だった入国カードも要らなくなったようだ。しかし、出国カードは入国管理官から渡される。これをなくしてしまうと出国時に大騒ぎになるらしい。出国カードも廃止してくれればいいのに、このあたりのシステムは相変わらずよく分からない。預けていた荷物もスムーズに出てきて、税関でも特に何も訊かれず。ここまではスムーズに、1810にロビーに出た。


 シェレメチェヴォ空港から市内のベラルースカヤ駅までの直通列車が開通したとのことなので、それを使うつもりで、今回は空港→ホテルのトランスファーを手配していなかった。しかし、列車のチケットカウンターに行ってみると、今日の列車のチケットは全て売り切れという! これは全くの予想外。しきりに『タクシー?』と声をかけてくる人を見ると、"official taxi"とある顔写真つきの名札を下げている。価格を聞いてみると、エリアごとの固定料金制になっていて、宿泊予定のイズマイロヴォホテルのあるパルチザンスカヤ駅近辺は2,100ルーブル(以下P)と明記されている。2,100Pであることを再確認したうえで、タクシーに乗ることにした。空港で地上スタッフに2,100Pを先払いし、到着後に運転手から領収書をもらうシステムとのこと。1850に空港を後にした。
 天気は晴れているが、時々夕立のように雨が降ってくる。ショッピングセンターがあちこちに出来てきて、ずいぶん賑やかになった。さして渋滞もなく、1930に

イズマイロヴォ・アルファ
に到着。運転手が追加の料金を請求することもなかった。当初予算(300P)の約7倍以上の支出となってしまったが、気持ちよくタクシーを使うことが出来たのはまだしも幸運だった。


 このホテルには、15年前に訪れたことがある。その時は、薄暗くて何もない無機的なホテルという印象しかなかったが、いまやロビーも明るく改装され、印象は悪くない。フロントスタッフの対応も丁寧だし、パスポートの登録もすぐに終えてくれた。部屋は26階の34号室で、フロントでは宿泊者カードをもらい、26階でジェジュールナヤという女性スタッフからカードロックキーをもらうシステム。古いソヴィエト・ホテルのシステムだが、宿泊していない外部の人間を防ぐことが出来るので安心度は高い。ところで、

26階の装飾
は『日本』がテーマなのか、どこか間違っている感の漂う
部屋の内装
が面白い。
 いったん部屋に荷物を置いて、
ホテル周辺
を散策。
レストランや惣菜店
、地下鉄の駅などが雑然とした雰囲気を醸しているが、モスクワにいる気分が一気に高まってきた。空腹でもないので、水のみを買ってホテルに戻る。日がかなり長く、22時頃にようやく暗くなった。ついでに、50ユーロ(以下EUR)と75ドル(以下USD)を4,295Pに替えておいた。


 明日は、美術館・博物館をいくつか巡る予定。さっそくロシアから先制ジャブをもらった格好だが、まぁのんびり過ごそう。


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