Prologue / Praha

 2019年に「いつでも見られると思っていたものが突然に見られなくなるかもしれない、ということに気づかされた。」と書いたが、2020年以降、まさか世界がこんなことになるとは全く想像すらしていなかった。COVID-19のパンデミックにより旅行はほぼ出来なくなり、回復の兆しが見られた2022年以降は、ロシアによるウクライナへの侵攻、原油などの資源高、円安も旅行を難しいものにする。個人的にも、身体のあちこちにガタがきている。海外への長旅に耐えられなくなるときも近いかもしれない。ならば、金銭面・健康面で耐えられると判断できるのであれば今のうちに行ってしまえ!と、3年ぶりの旅に出ることにした。行先は、何故かわからないが訪れたくなったプラハを中心に、クトナーホラ・テルチ・チェスキークルムロフを廻るプランを立てた。時刻表や予約サイトを見ながら計画を立てていくのは、久しく忘れていた楽しさだった。
 あちこちの空港で、人手不足によりロストバゲージが多発しているとも聞いたので、Osprey Fairview 40 という機内持ち込み可能とされるバックパックや、衣類を圧縮できるオーガナイザーなどを準備し、必要最低限の荷物を詰めていく。現地の気温は低くなるようなので、シャツジャケットや長袖Tシャツを何枚か入れておく。これまでの旅では、サブノートPCを持参し記録などに使っていたが、今回はiPad Airを持っていくことにした。しかし、できる限りの工夫をして荷を減らしたものの、エミレーツ航空の機内持ち込みルールを満たすことは出来そうにない。諦めて、畳むことのできるトートバッグを機内持ち込み用バッグとして使い、バックパックはチェックインすることにした。今回は移動が多い旅程なので、スーツケースがないだけでもかなりマシだろう。
 いまや旅行においてもネットへのアクセスは欠かせない。航空券やホテル、列車やバスの予約も全てスマートフォンで管理している。幸い、契約しているahamoは追加料金なしで海外ローミングに対応しているので、現地での利用も何とかなるだろう。旅の準備もずいぶん変わったものだ。
 立案時は、帰国に際して現地でPCR検査を受けて陰性証明書を発行してもらう必要があり、陽性と判断された場合は現地に滞在しなければならないというのが大きなリスク要因だった。しかし、9/7以降はこのルールが撤廃されたため、帰国出来ないというリスクが大きく減じたのは幸いだった。ただ、やはりCOVID-19への感染リスクは出来るだけ減じておきたいので、マスクやアルコール消毒液を持参する。


 3年ぶりのスカイライナー、車内のチャイムも懐かしい。夕暮れの下町の車窓もよい。ただ、10人くらいしか乗っていないのはやはり寂しい。18:20に成田空港に到着。ところどころに人が集まっているもののやはり閑散としている。エミレーツ航空のチェックインが既に始まっていたので手続きを進め、バックパックを預けた。上のフロアのお店も大半が閉まっていた。別に何も買うわけでも食べるわけでもないが、ここをうろつくのも旅の始まりという感じで好きだったのだが、しょうがないので出国手続きに進む。手荷物検査の設備も新しくなり、出国審査は顔認証…この投資が生きていないことに泣ける。
 Duty Freeもほぼ閉まっていて、日本イメージで売る免税店の明るさがかえって侘しさに拍車をかけている。食事を出す店もないので、ゲート近くにあった店でよく冷えたおにぎり2つとオレンジジュースで夕食とした。搭乗開始まであと2時間、やることがない。ふと見上げると、月が本当に美しかった。ゲートに接続されている機材も少ないが、やはり空港の風景は旅情をかきたてる。3年ぶりの感覚だ。ボーディング開始の30分前にゲート前へ行く。さすがに多くの人が集まっていた。こんな侘しい空港で旅立つのは今回だけに願いたいことだ。


 9/10(Sat)22:30発のエミレーツ航空EK319でドバイへ出発。離陸前に眠ってしまうことも増えていたが、さすがに興奮していたのか離陸の瞬間をしっかり味わった。1時間ほどで機内食が出た。コンパクトに機内食を食べるコツも忘れかけていたが何とかこなした。食べ終えて5時間ほど眠った。目が覚めてから、「トップガン」と「トップガン・マーヴェリック」を立て続けに見た。何度見ても楽しい映画だ。私も「トップガン」の頃は青春真っ只中というやつで、マーヴェリックと同様に年を取ったことを改めて実感する。隣りの若い女性は初の海外でマルタに語学留学だそうな。私のようなおっさんが若い人の時間を奪ってはならぬので、会話はそれだけに。若いうちに良い旅を。フライト中にスマートフォンを使う人も多い。昔は、飛行中は電波を発する機器の使用は厳禁と繰り返し言われたものだが。到着1時間ほど前に朝食が出た。オムレツやパンを食べたが、甘いものには手をつけなかった。
 9/11(Sun)04:00(時計が5時間戻る)にドバイに到着。この約10時間のフライトは、予想したよりはつらくなかったが、このあと4時間の乗り継ぎ待ち、さらに6時間のフライトが控えている。ドバイ国際空港は2回目だが、相変わらずそのスケールに圧倒される。40分ほどでゲートBのゾーンに着いた。全ての免税店が営業しているし、5amとはいえ客もそれなりにいて、マスクと消毒液を除けばコロナ前と変わりない印象。電化製品店ではもはや日本語企業のブランドは全く目立たないのが悲しい… どうしてこうなった。スタンドでオレンジジュースとエスプレッソを買って一休み。アザーンが流れてきて、異国にいることを実感する。一方で、搭乗案内などのアナウンスが全くないので静かではあるが、自分に関わる情報は能動的にチェックしなければならないということでもある。まぁ、現地語と英語のアナウンスから聞き取るのはなかなか難しいことだったから、特に問題ないか。ここまでの日記をつけておく。これもiPhoneから簡単に出来てしまう。7時を過ぎて陽が高くなってくると人がさらに増えた。搭乗開始まで45分もあるのにゲート近くの椅子も既に満員。成田空港とのこの違いは何なのだ? 07:30頃から搭乗を開始しそうな雰囲気。さて、これからの約6時間のフライト、眠るべきか眠らざるべきか。
 08:35発のEK319でプラハへ出発。今回は離陸前に眠ってしまい、気がついたら空の上。前のフライトで途中までだった「トップガン・マーヴェリック」を最初から見た。フライトの前半でチーズのパニーニ、後半でビーフ・ストロガノフの機内食が出た。


 13:00(時計がさらに2時間戻る)にヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ国際空港に到着した。久しぶりの入国審査。並んでいる列が突然クローズされてしまったが素早く隣りの列に移ることが出来た。手荷物も、少し待たされたものの問題なく受け取ることが出来た。インフォメーションでプラハ本駅までのバスの切符と、プラハの公共交通の1日券を4枚買い、計580コルナを支払った。バスを待っている間も、晴れたり曇ったり雨が降ったりする。14時に出発。5分ほど走っただけで東京とは全く違う家並みが現れ、それだけで旅に出てよかったと思ってしまった。
 40分ほどでプラハ中央駅に到着。駅構内に入るためのエレベーターがなかなか来ない。いったん構内に入ってから右手に出てトラムの停留所に向かい、9番のトラムでホテルの最寄りの停留所に向かった。そこから10分弱歩いて、予約したOld Prague Hotelにチェックインした。このホテル、19時以降はレセプションに誰もいなくなるので、自分で鍵を使って玄関の扉を開かなければならないのだとか。内装もクラシックなのかただの古臭いおんぼろなのか、判断に苦しむ。


 外出用のナップザックに上着などを入れて16時に外出。ATMで800コルナを引き出しておいた。天気は晴れたり曇ったりを繰り返しているが、意外に風が冷たい。厚手の上着を持ってきて正解だった。懐かしいプラハ旧市街をぶらぶらする。途中で、トルデルニーク (trdelník) という、プラハ伝統のお菓子らしいものを90コルナで買った。要するにドーナツの大きなものだ。それなりに美味しいがさすがに半分しか食べられなかった。歩いていると、ついにあの懐かしい天文時計、そして旧市街広場に出た。何度見ても本当に美しい広場だ。ただ、今日は誰か政治家が集会を開いていて喧しい。しばし建物を眺めてぼうぜんとする。観光客もたくさんいて、ほとんど誰もマスクをしていない。コロナ禍の前に戻ったかのようだ。(


 カレル橋を目指して通りを歩き始めた。この通りを初めて歩いて感動しまくったのがもう23年も前とは。通りを抜けてカレル橋に向かう前の横断歩道の混雑も変わらない。カレル橋を歩いていく。川の風が心地よく、プラハ城や街並みはあまりにも美しい。ため息しか出ない。(


 以前から、欧州でサッカーを観戦してみたかった。ちょうどこの日に、SK Slavia PrahaとSK Dynamo České Budějoviceの試合があったので行ってみることにした。何処の席がいいかもよくわからなかったので、メインスタンド後方の座席のチケットを計495コルナで買った。ちょうどここから22番のトラムに乗ると、17:30過ぎにスタジアムに到着できるらしいのでトラムに乗車。車窓から見える街並みもまた良い。スタジアムに近づくと、郊外の団地の様な風景になった。トラムを降りてすぐにスタジアムがあった。まずはオフィシャルショップへ。Tシャツを買うつもりだったが、みんなマフラーを身につけているのでマフラーを買った。スタジアムに入ってみる。それほど大きくはなく、2階からでもグラウンドが近く見える。夕食代わりに何か食べようと思ったが、ホットドッグの類しかない。ここではスタグルという概念はないようだ。馬鹿でかい

ソーセージのグリル
を買うとパン2枚をつけてくれた。思ったよりは美味しかった。
 19:00に試合開始。客の入りはまぁまぁか。ゴール裏がいきなりヒートアップし、ドラムと拍手とチャントがすごい。挙句、火を放つパフォーマンスまでやっていた。想像以上の熱さだ。プラハがボールを支配し、立てつづけに2点を奪うともう最高潮。みんなマフラーを振り回す。マフラーを買っておいてよかった。前半終了間際に3点目を奪い、再び観客が盛り上がる。名残惜しいが、旅の初日の疲れもあり、混雑に巻き込まれたくもないので、ここでスタジアムを後にした。欧州サッカーの熱さをわずかでも体感できて楽しかった。これからはスラヴィア・プラハも応援しよう。(

 再び22番のトラムでホテルの最寄りの停留所に着いた。このホテルはプラハ旧市街の中にあるので、夜景を楽しむために少し散策した。23年前、入り組んだ路地と、黒光りする石畳と、橙色の街灯に魅了されたことをはっきりと覚えている。やはり観光客向けの店が増えて明るいところも増えてしまったが、それでもところどころに妖しい魅力を持つ路地も残っている。旅の終盤にプラハに戻ってきた日にじっくりと歩こう。(

 21時にホテルに戻った。移動も含めて長かったが、楽しい一日だった。

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