Prologue / Porto

 今年の夏も旅行に出られる見込みとなったので、憧れていたポルトガルに行くことにした。ユーラシア大陸の西の端にあるポルトガルには、いつか陸路で大陸を横断したその果てに辿り着きたいと思っていたが、陸路大陸横断どころか海外旅行にすら行けなくなるときがいつやってくるかもわからないので、行けるうちに憧れの地にいくことにした。
 さて、リスボン・ポルトに加えて何処に行こうかと調べているうちに、内陸にある小さな村々か、海沿いの街を辿るか、のいずれかを選択することになった。見どころはあちこちにたくさんあるが、それらを結ぶ公共交通機関のアクセスが良いとは言えず、決め手にも欠ける印象。さんざん迷った末に、公共交通機関で行くには不便なのだが、当初は内陸ルートを選択し、モンサントとモンサラーシュに泊まることにした。フライト・ホテル・鉄道・バスの予約を進めていくが、やはり価格が高い。そのうえ、多くの国内バス路線を運営しているRede Expressos社のWebサイトにアクセスしても403エラーが表示されるだけ。結局、Omioなど代理店を経由して購入するしかなかった。バスが通っていないところは現地でタクシーを使うしかないので、念のためにUberなどの配車アプリも準備する。レンタカーを借りて自分で運転するのがベストなのだろうけど、今更運転もできないし。
 ところが、出発まで2週間を切った段階で、やはりこのルートへの不安、そしてタクシーを現地で探すことの面倒が大きくなり、ポルトからコインブラ、ファティマ、ナザレを経由してリスボンへ向かうルートに変更した。こんなことは初めてだ。やはり勘が鈍っているのか、それとも、年をとって面倒を避けるようになったのか。このルートであれば、ほぼバスのみでこなすことが出来る。ナザレでのんびり大西洋を眺めるのもよいだろう。ただ、ファティマからナザレへのRede Expressosバス、代理店でのサイトで購入前は直通のように表示されていたのに、購入後に発行されたチケットではレイリアという街で5分で乗り継ぎと表示されている。チケットは1枚なのに、どういうことだろう? 乗り継ぎに失敗したら、レイリアでタクシーを使うしかないだろうか。しかも、Rede Expressosのバスの切符はサイトではキャンセルできないらしい。ダメもとで、リスボンに着いたらカウンターに行ってみるか… などと考えているうちに、ファティマに行くのも止めて、コインブラから直接ナザレに行きたいような気もしてきた。結局、出発4日前に、ファティマを経由せず直接にナザレへ行くプランに変更した。1日に2度以上の移動は面倒に思えてくることを、次回以降の旅の計画では頭に入れておこう。
 ユーラシア大陸の最西端として名高いロカ岬に行くかどうかもずいぶん迷ったのだが、今回の旅程では難しそうだ。いつか、陸路で大陸を横断することが出来た時まで取っておくことにしようと思っている。


 8/12 17:00発のエティハド航空EY871で、まずはアブダビへ向かう。14時に成田空港に着いてみると、観光客が大勢いる。混雑する前に手荷物検査と(自動化された)出国審査を通過した。免税店も多くが営業を再開していて、買い物や飲食を楽しむ人も多い。やはりこうでなくては。ただ、日本人が少数派のようにみえる。香港行きフライトの搭乗口は長蛇の列になっていた。またも離陸前に寝落ちした。今回は、トイレへのアクセスを優先して前方部最後尾通路側の席にしたが、リクライニングも問題なく、この席を選択して正解だった。機内食も含めて、ごく普通のエコノミーだ。眠ったり本を読んだりしながら過ごす。iPadでたくさんの本を読めるのは便利だ。初めての旅以来必ず読んでいる「食卓の情景」と「散歩のとき何か食べたくなって」もiPadに入れてある。昔から、この2冊の文庫本を持ち込み、離陸後に機内で開くのが旅の始まりだ。眠ったり本を読んだりして過ごした。
 22:00(時計が5時間戻る)にアブダビ空港に到着。1時間以上も早く到着したので、ここで約4時間のトランジット待ちとなる。UAEはahamoのローミング対象国に入っていないのでモバイルデータ通信は使えないが、アブダビ空港のフリーwi-fiでネット通信が可能になる。transferで手荷物検査を受けてすぐに免税店エリアへ。こじんまりとしていて、ドバイのような豪華絢爛を予想していただけに拍子抜けした。ゲートエリアには人がたくさんいて、座席がすべて占領されていた。57番ゲート近くのトイレに無料のシャワーがあると聞いたので行ってみたが見当たらず。諦めて戻ると、35番ゲート近くでシャワーのサインを見つけたので向かってみると、トイレの奥にシャワーがあった。ただシャワーがあるだけで、タオルも物置きすらもない。それでも温かいシャワーを浴びるのはいい気分転換だった。身支度する際に腕時計が見当たらなくてかなり焦ったが、隣の個室との境目近くに落ちていたのを運良く見つけることができた。フードコートにも行ってみたが、ここも満席だ。ゲート近くのカフェでカフェラテをAMD26で買って一休み、ここまでの記録をつけた。
 0時を過ぎたが人が減る様子はない。コロナ禍以前のようだ。Departureを見ると東京行きの出発が2時間ほど遅れている。ちょうど一週間後、またここにいるはずだ。8/13 02:15発のEY63でリスボンへ向かうので、1時に搭乗ゲートへ向かう。このゲートは地上レベルなので、恐らく機材までバスで運ばれるのだろう。ここも座席が全て占領されていたので、床に座って案内を待つ。やはりバスで機材まで運ばれた。さすがに外に出るととても蒸し暑い。


 離陸が30分遅れたが、定刻より30分早い07:10(時計がさらに3時間戻る)にリスボン空港に到着。ここでもバスで空港の建物へ運ばれた。建物はなんだかがらんとしていて味気ない印象で、東欧の空港のようにもみえる。入国審査では、なんと日本のパスポートの顔認証に対応していてスムーズに通過。ここからバゲージクレームまでまた歩かされる。15分ほど待って無事に荷物を取り、このバックパックに全て詰め直した。空港直結の駅でリスボンの交通カードである Viva viagem card を買い、地下鉄でオリエンテ駅へ向かった。地下鉄の駅も東欧みたいだ。オリエンテ駅に着いたが、ここも広いわりに空いている店が少ないのは、日曜日だからだろうか? カフェでコーヒーとエッグタルトを買って一休みするが、クレカが使えない。まだ現金主義なのだろうか? ポルト行きの切符は前売りで買ってあるので、出発予定時刻の10:09を待つ。09:45に上の階に上がると、プラットホーム番号が表示されているのはいいとして、new time 10:22とも出ている。仕方ないですな。…と書いているうちに10:14になった。早めに

プラットホーム
に行くことにした。陽射しは強いが、風がひんやりとしていて、Tシャツだけでは肌寒いかもしれない。気温は22℃だ。
 10:09に列車が入ってきた。最新型のようだ。3号車56番席は一人用なのでゆったりとできる。10:06に出発。ほぼ満席だ。車窓から見える青空がまさに「抜けるよう」で本当に美しい。旅に出て良かった。オリエンテ駅での待ち時間が長過ぎるかと思ったが、かえって焦ることもなく、飛行機の長旅からのいい気分転換にもなった。車窓から見える景色は白くて明るい。建物だけではなく、土も白い。陽射しの中の気怠い街並みはとてもよい。こんなところで何もせずだらけたまま生涯を過ごすことに少し憧れる。時速は180kmに達する時もあり景色が飛ぶように過ぎていく。検札が来たがQRコードの切符を見せるだけで特に問題なし。この切符でそのまま乗り換えてサンベント駅に行けることがわかった。11:48にコインブラB駅に、12:12に Aveiro に着いた。12:30頃、突然に海が見えてきた。Granja という駅の近くには小綺麗な家が並んでいる。すぐに海というロケーションも最高だろう。(
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) 12:55に V.Nova de Gaia に着いた。やはりポルト着も遅れそうだ。
 13:00にポルト・カンパニャン駅に着いた。そのまま、検札のおじさんに教えてもらったように2番線でサンベント駅への列車を待つ。13:26に入ってきた列車に乗り、たった4分でサンベント駅に着いた。古いプラットホームと時計が素晴らしいが、なんといっても建物を飾るアズレージョの素晴らしいこと。ポルトガルにいる実感が湧いてきた。(
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 いったんメトロの駅で交通カード Andante を買い、ゾーン2を5回分チャージして、地上に出てホテルに向かう。ポルトの市内交通の乗車券システムはリスボンのカードを使うことができないので別に買う必要がある。しかも、行き先を考慮して予めゾーンを指定してチャージしておかなければならず、初見の旅行者にはちとわかりづらい。まぁ、各地の地下鉄の乗車券を収集しているので、土産になると思えば良い。さて、サンベント駅周辺は旧市街の中にあるらしく、古い建物と狭い道がよい風情…なのだが、とにかく坂がきつい! ようやく予約していた "Guest House Triunfo" にチェックインした。隣り合った数軒の家をまとめてホテルとして運営しているのか、フロントらしきところでチェックインして鍵をもらい、2軒隣の家に入って割り当てられた部屋に入った。荷物を軽くして、観光を開始。


 まずは昼食を摂りたいのだが、どこも満席だった。面倒なので、この近くにある「世界で最も豪華なマクド」に行った。ここも混んでいるが、さすがに注文の捌きが早い。デラックスバーガー・豆のスープにコカコーラゼロで6.9ユーロを支払った。ただ、ここよりはブダペストのマクドナルドのほうが豪華なような気がする。(

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) 再びサンベント駅でアズレージョをゆっくりと見る。古き良き時代の華やかさだ。(
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) 水1.5リットルを買っていったん部屋に戻り再度出かけた。
 続いてポルト大聖堂へ行った。ここの内装にもアズレージョが使われている。(
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) ここから、路地を辿りながら旧市街を散策。狭い路地と古い建物がたまらなく良い。急な坂道を降っているが、ここで生活するということはこの坂道を登り降りしなければならないわけだ。観光するだけなら楽しいで済むが…(
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) 坂を降り切り、川沿いに出た。アートショップに入ってみると、なかなかよいタイルアートがある。ただ、絶対に割れてしまうので諦めた。川沿いは驚くほどにたくさんの観光客で大混雑。飲食店や露店、パフォーマーなどもたくさんいて、本当に賑やかだ。水面上には、昔のワイン運搬船を模した観光客向けの遊覧船もたくさん。対岸には、ポートワインの醸造所がいくつもあって、試飲ツアーもやっているのだそうな。(
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 見上げると、優美な外観の
ドン・ルイス一世橋
が架かっている。この上からの眺めがポルトの名物の一つなのだが、そのためにはまず坂を登らなければならない。結構きつかったが、何とか登り切った。橋を渡り始めると、とんでもなく高いことを実感する。カレル橋よりもずっと怖い。下を見ないように歩くが、冷たい風が強く吹いてくる。しかも、メトロの列車もギリギリを通っていく。何とか対岸までたどり着いたが、これは本当に怖かった。今日は対岸の観光はせず、そのまま橋を戻った。(
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 橋を渡り終え、そのまま行くとすぐにポルト大聖堂に出た。一旦ホテルに戻ることにしたが、土地勘を掴むために別の道を歩いてみることにした。すると、こちらの方が道も広く、建物もきれいだ。最寄りのバス停であるBatalha周辺にはホテルやカフェも多く、こちらに来れば昼食にも困らなかったかもしれない。一旦ホテルで一休みし、明日の朝食の手配をお願いして(10ユーロを支払った)18:30に再度外出。(
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 まだまだ陽も高いが、流石に疲れてきたので夕食を摂ろうと思い、先ほどBatalha界隈で見つけた

"Cafe Sagres"
に入ってみた。地元の人のためのカフェ兼酒場のような店だ。店のおっさんも客も陽気で、外国人観光客を毛嫌いするような雰囲気もなく、歓迎してくれる。日替わり定食Prato do diaができると言われたのだが、厨房の火を落としてしまったとのことで、代わりにビーフステーキをパンで挟んだものはどうか?と言われた。せっかくなのでそれを注文してみた。薄手のビーフステーキ、ハム、チーズをパンで挟んだだけのものだ。味付けも塩を元にしたシンプルそのもの。だけど、何だか美味しい。ちと当てが外れたけど、これはこれでよかった。コーラ含めて4.8ユーロを支払った。
 19時近くになり、ようやく陽も傾いてきた。ポルト大聖堂のそばの広場から旧市街をぼーっと眺める。赤い屋根が幾重にも連なり、窓には洗濯物がはためき、路地で子どもが遊んでいる。決して絢爛な美しさではないが、とても綺麗だと思った。日没を見たいのはやまやまだが、これ以上無理をするのも良くないと思い、19:30にホテルに戻った。本当に長い一日(以上)だった。
 明日は、終日ポルトをぶらぶらしながら観光する。
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