今年の夏は、ローマ・フィレンツェ・ヴェネツィアを旅することにした。国内外で耳にしたくないニュースが増える一方でもあり、人類が生み出した美しいものを見たくなったので、訪れたことのないフィレンツェ・ヴェネツィアと、学生時代の卒業旅行で少し周っただけ(もっとも、サン・ピエトロ大聖堂以外全く覚えていないのだが)のローマを選んだ。
今回の旅のプランニングでは、例年よりも早い時期にフライトと宿泊を予約した。コロナ禍が去り旅行ニーズが高まる中で、夏に近づくほど価格が上がる可能性があったからだ。フライトは往復ともにローマ直行便を取ることができた。ただ、往路はノンストップで14時間以上、復路もローマから東京まで12時間以上もかかる… ホテルは、すべて鉄道ターミナル駅の近辺を選択した。ヴェネツィアのホテルは、値段が上がることを承知の上で、治安と利便性を優先して本島内で確保した。いつのまにかアリタリア航空がITAエアウェイズという社名に変わっていたことに驚いた。
美術館などを訪問する予定が多くなるので、これらを効率よく訪問するスケジュールを調整するとともに、見どころを提示してもらうために、ChatGPTと対話しながらスケジュールプランを立てていった。このサイトに書いてきた過去の旅のフライトや宿泊の予定、予算、嗜好などを学習させ、さらに好みなどを指示すると、私の好みに合ったプランを出してくれる。提示されたプランに、さらに修正を指示して改善していく…というサイクルを繰り返した結果、レビューサイトなどをあまりみることもなく、良さそうなスケジュールプランが出来上がってしまった。これまでも旅のスタイルを大きく変える技術革新に遭遇したが、生成AIも間違いなくその一つといえるだろう。
観光客の激増に対応するためか、多くの観光ポイントが予め時間を指定した前売り制を導入しており、待ち時間をできるだけ避けるために、立てたスケジュールに沿って美術館や教会など観光ポイントのチケットを予め購入し、その結果を随時ChatGPTに指示して、スケジュールプランを仕上げていく。今回の旅では、目的のないぶらぶら歩きの時間は少なくなるだろうが、詰め込み過ぎないほどにしつつも出来るだけ多くの「美しいもの」をこの目で見ておきたい。
中でも、最も難しかったのはコロッセオのチケットの購入だった。まず、アリーナと地下通路にも入れる一番人気のチケットを発売開始日である1ヶ月前に購入しようとしたが、あっという間に売り切れてしまった。次いで、アリーナには入れるチケットを発売開始日である1週間前に購入しようとしたが、これもあっという間に売り切れてしまった。諦めきれずに両方のサイトのリロードを繰り返して空きを見つけようとした。すると、16日の13:45に地下通路チケットが1枚だけ表示され、首尾よく購入することができた! この日の17時にサン・ピエトロ大聖堂のチケットを購入しているが、スケジュール面でもまぁ問題はなかろう。
例年よりも長い日程を確保したのだが、3都市とも見どころがたくさんあり、いくつかを諦めたにもかかわらず、かなり詰め込んだ旅程となった。ただでさえフライト・宿泊費が高いうえに、観光ポイントのチケット代が加わり、1回の旅の費用としては史上最高になってしまったが、旅が出来なくなった時に後悔したくはない。さほど無理をしないで済む旅程を組んだつもりだが、昨年のこともあるし、現地での体調管理には気を使わねばならないだろう。
出発前日に特有の、期待と若干の不安が混ざった気分を味わう。この気分は行き先に関係ないものだ。あと何回味わえるだろうか。
往路のフライトAZ793は羽田発なので、地下鉄を乗り継いで羽田空港へ向かう。夏の旅のはじまりといえば上野駅からスカイライナーというのが決まりごとのようになっていたのでいささか妙な気分だ。地下鉄で行けるのは確かに安くて便利だが、ラッシュ時ではないにしろ狭い車内にスーツケースを持ち込んだ多くの乗客を見ると複雑な気分ではある。
出発3時間前に羽田空港に到着、出発ロビーは混雑している。荷物を機内預けにするための行列ができている。始まってしまえば手続きはスムーズに進んだ。4階にある日本橋のレプリカを渡り気分を高めて、出国。さほど混雑もしておらず、10:20には終えることができた。搭乗開始まで1時間半以上もあるので免税店エリアをぶらぶらする。ここは台湾に行くときに使うことが多いので、これからローマ行きに乗るという実感が今ひとつ湧いてこない。もっとも、この後には約15時間という恐怖のフライトが控えているが… ブランドショップや飲食店が活況を呈しているが、どれも高すぎる。コンビニで水などを買うだけだ。
12:05に搭乗開始。座席は目論見通り前方最奥通路側だが、周囲の頭上棚が既に埋まってしまい、手荷物を前方席下に置くしかない。まぁ大きな荷物ではないので、案外これでもいいかも。定刻通り12:45に離陸、いよいよ約15時間の長旅の始まりだ。機内食はトマトのラビオリでまぁ普通。到着予定時刻が1時間ほど早く表示されている。この通りならば本当に有り難いのだが。後はもう寝るか本を読むか、である。夏の旅のはじまりとして読んでいる「食卓の情景」など。いつのまにか、これらを書いた池波正太郎の当時の年齢も超えてしまい、書かれている老いの心境が身につまされるようになってきた。「五十を過ぎると、人生の[残り時間]も高が知れている」という一文が重い。
出発から7時間ほどでサンドイッチなどが配られた。これだけ食べれば夕食を摂らなくともいいかもしれない。約10時間を経過、うち4時間も眠っただろうか。時差を考えるとあまり眠るわけにもいかない。あと4時間あまり、長い… 本と睡眠の繰り返しで何とかやり過ごす。着陸1時間ほど前に海苔巻きが配られた。
定刻よりも約1時間早い19:36にローマ・フィウミチーノ空港に到着した。これはとても有り難い。空港内も分かりやすく、入国審査には自動化ゲートが導入されており、20時にはバゲージクレームに着いた。10分ほどで荷物を受け取り、テルミニ駅までの特急列車「レオナルド・エクスプレス」に乗るために駅へ向かった。自動券売機が混雑していたが、何故か奥の有人売り場が空いていたので切符を購入、ついでに全く知識がないらしい(英語もダメ)な韓国人のおばさんに教えて、20:23発の列車に飛び乗った。列車内も混んでいて座れなかった。
21時にテルミニ駅に到着。旅行に出ている喜びが込み上げてきた。ここから10分足らず歩いて予約していた "Hotel Domus Praetoria" にチェックインした。22時以降はWhatsappで送られたコードを使って入らねばならなかったのだが、フライトの到着が早かったおかげで順調に進んだことが有り難い。部屋は狭いがエアコンもあり十分だ。
明日からはローマを観光する。午後にコロッセオとサン・ピエトロ大聖堂のチケットを購入してある。2025年夏の旅が始まった。